木造+鉄骨造ハイブリッド構造の先駆的技術オンライン発表会 質疑応答

(一社)福岡県木材組合連合会です。
2月6日(日)に開催しました、木造+鉄骨造ハイブリッド構造の先駆的技術オンライン発表会(別窓でYouTubeへ遷移します)において、参加者の皆さまからいただいたご質問につきまして、時間の都合により当日ご紹介できなかったご質問を含め、以下のとおりご回答いただきました。
皆さまのご参考になれば幸いです。

 

(全体)
【質問1】中高層建物のどのような点が、ハイブリッド構造に適しているのでしょうか。

回答1:(阪根宏彦計画設計事務所)
高い強度・精度のCLTと鉄骨造はハイブリットに有効で、高い靭性の求められる建築に適しています。本計画ですと、中層ですとCLT耐震壁と鉄骨柱との一体化、高層建築ですと、地震だけでなく風の要素も大きくなる厳しい条件下で、高い靭性と小さな変形は他にない良い特性です。もちろん、重層する建築の軽量化による基礎の軽減等は、総合コスト縮減にさらなる期待が持てます。

 

(CLT)
【質問2】CLTの原木は、地元の木を中心に集めているのでしょうか。また、CLTに都合の良い材齢はどのくらいなのでしょうか。

回答2:(サイプレス・スナダヤ)
CLTの原木は、杉の場合、愛媛県、徳島県、高知県の3県から集材しています。桧の場合は東は静岡県、西は鹿児島県から集材しています。その間に入っている西日本の各県は多い少ないの差はありますが、どの県からもおおむね集材しています。杉は地元だけでも十分な資源が集まるのに対して、桧は資源量が杉よりも少なく、生育している地域も限られる事から、広範囲から集材しています。なお、依頼があれば地域材の対応も可能です。
すみません。あと、CLTに適した木材の材齢(樹齢)は特にありません。高樹齢の材料でも若い樹齢の材料でもなんでも来いです。エンジニアードウッドですから、若い樹齢の細い木から切り出したラミナでも、高樹齢の太い材料から切り出した材料であっても、最終的には、欠点をカットして、張り合わせて再度断面、長さを再構成しますから、丸太の細い太い、樹齢の若い、古いというのは正直生産において大勢に影響はありません。

【質問3】九州産の比較的柔らかい杉でも、構造材として必要性能を満足することは、容易なのでしょうか。

回答3:(サイプレス・スナダヤ)
容易です。そもそもスギCLTの曲げ強度の設定自身が九州地域の軟らかい杉(曲げ強度がやや出にくい杉)でも十分対応出来るように配慮された設定になっています。Mx60(対称異等級構成、曲げヤング6.0GPa)、S60(同一等級構成、曲げヤング係数6.0GPa)という事になっており、Sの同一等級構成の場合は6.0GPaの曲げヤングを持つラミナしか使用できませんが、Mx60の対称異等級構成の場合は内層(中芯部分)にはさらに強度の弱くても良い、曲げヤング係数3.0GPaのラミナまで利用が可能です。通常のスギでもほとんどが曲げヤング6.0GPaをクリアでき、さらにそこから落ちる弱強度材もMx等級の中芯材として利用することで、十分利用が可能になります。

【質問4】ラミナ1本毎に強度を確認していましたが、製造後のCLTマザーボードの強度確認は行うのでしょうか。行う場合は全数でしょうか。抜き取り(何%)でしょうか。CLTマザーボードの品質管理方法をご教示ください。

回答4:(サイプレス・スナダヤ)
CLTが完成した後の曲げ試験は、3001枚以上の生産に対して、6枚のCLT試験体を作成し、日本合板検査会と呼ばれるJASを監督する第三者機関に試験体を提出し、強度の確認を行っていただくことで、強度の担保を行っております。本来は抜き取り検査などを行った方がよりよいのでしょうが、基本的にCLTは合板の12㎜ x 910㎜ x 1,820㎜ などのように、一般汎用サイズがなく、予め量産しておいて、在庫の中から販売を行うような従来の木材製品と同じような対応が出来ません。今のところ、1案件1案件ずつのオーダーメイドになります。従って途中で抜き取って曲げ破壊試験をしてしまうと、お客様からご注文いただいているCLTがダメになってしまいますので、今のところJAS認証上は3001枚の荷口に対して6体の試験体提出という形式でOKという事になっています。CLTの強度はラミナ段階での強度等級区分機による強度チェックだけで管理されていると言い換える事ができます。

 

(素材)
【質問5】CLTのJASでは材のそりや曲げの規定がありませんがこのように大きな寸法のCLTを耐力壁に使用する場合そりや曲がりが施工上問題になることはなかったでしょうか。

回答5:(木質環境建築)
JASでは、曲り:矢高2mm以下、反り及びねじれ:利用上支障のないことと規定されています。本物件のサイズ(壁:168mm×1,400mm×7,700mm、床:150mm×2,980mm×6,860mm)においては、問題は生じていません。

 

(環境)
【質問6】熱伝導の高い鉄骨と熱伝導の低い木だと、外皮性能はどのようになりますか。

回答6:(阪根宏彦計画設計事務所)
個別の設計条件として進める必要がありますが、CLTは断熱性能も高く外皮の複合化にも適しています。断熱材の自然素材化などこれからの建築に有効です。

 

(施工)
【質問7】新大和ビルの施工期間はどれぐらいだったのか教えて頂けるでしょうか。また施工時に苦労したことなどがありましたら教えてください。

回答7:(阪根宏彦計画設計事務所)
鉄骨+CLTで3週間です。
回答7:(大和興業)
見たことのない建築を担当者の配置から見積もりまで、様々に検討を要しました。

 

(維持管理)
【質問8】太陽光に晒されるため、色褪せなど劣化があるかと思いますが、設計上の配慮やメンテナンス等何か工夫がありましたら教えてください。

回答8:(阪根宏彦計画設計事務所)
全ての建築材の宿命ですが、木質材料は塗装で経年変化を遅らせる技術でなく、今回はクリア-系塗装(VATON:植物油脂性無公害塗料)北面に面することもあり、設計しています。さらに、我々は、時間とともにシルバーグレイに変わる経年変化もエイジングとして評価して進めています。古代からの寺社仏閣も維持管理、木造の有効性を生かして長くもっていることも、大切にすれば長寿命と考えます。

 

(構法)
【質問9】CLT耐力壁はどのタイミングで施工をしたのでしょうか。
耐力壁を挟む両側の鉄骨梁の施工が完了してからCLT耐力壁を落と込んだのでしょうか。

回答9:(阪根宏彦計画設計事務所)
動画にもありますように一体型の建方です。

【質問10】鉄骨梁とCLT耐力壁のクリアランスがどれぐらいだったのか教えてください。

回答10:(阪根宏彦計画設計事務所)
耐震壁接合部は締結前で1.0mm〜1.5mm床等で水平方向に10mmです。

 

(その他)
【質問11】CLT部分の保有水平耐力は、どのくらいですか。概略を教えてください。

回答11:(フロンティア設計)
CLT間柱の1枚当りの終局せん断耐力は接合部の耐力により決まり、その値は構造実験より196kN、保有水平耐力時の負担せん断力の最大値は94kN程度となっています。(2階部分での保有水平耐力時のCLT間柱のせん断力負担率は約66%となっています)


【質問12】新大和ビルは3層1節でしたが、吊り荷が大きくなる場合は2節以上とする必要があります。その際はCLT壁の鉄骨への接合を現場で行うことになるのでしょうか。または、1階CLT壁無し、2~4階CLT壁有り、5階CLT壁無し、6~8階CLT壁無し、というような立面計画になるのでしょうか。

回答12:(阪根宏彦計画設計事務所)
まさに建築設計の醍醐味で、様々な状況に新たな技術が生まれる契機があります。素晴らしい問いにはデザインがあると言われています。どちらの質疑にも美しい建築像や開発の契機があります。個別事象で進めて行きます。ご質問ありがとうございます。